「アツイナツ」 H.N.ぽむ
私は女子大生1年。19歳。この夏、私はオンナになった。
私はうつ病患者である。約1年半前些細なことをきっかけにうつ病を患ってしまった。早くに手を打てばよかったものの、家庭環境が少し複雑なこともあり、「これはただの甘えだ。恥ずかしいことだ。」と思い込み、誰にも相談できないまま自傷という間違った方向に逃げ道をつくってしまった。身体中をカミソリで切り裂き、ありとあらゆる壁を殴りつけ、机がへこむぼどに頭をガンガン打ち付けた。毎日やった。痛かった。ものすごく苦しかった。だけど、心の苦しさに比べると、そんなものは虫さされにも及ばなかった。
自傷を初めて約1ヶ月、当時、高校生だった私の担任が私の異変に気づいた。授業中、別の教室へと呼び出された。
椅子に座らされ、先生に聞かれた。
「どうした?」
「ん?なにが?」
自傷のことで呼び出されていることは感づいていたが、私はおもいきりとぼけた。先生が深くため息をついた。
「制服の袖、胸元、傷が見えとんじゃ。その右手はなんでそんなにはれあがっとる。そのでこもにきびがつぶれたじゃ通用せんぞ。もう一回聞く。どうしたんや?」
私は顔をそらした。先生に力いっぱい顔をつかまれた。
「俺の目を見ろ。しっかり見ろ。どうしたんや?俺に話せ。話してくれ。」
先生の目は本気だった。
「わかった。わかったから。」
先生の手を無理やり振り払った。そして、今まで誰にも話していなかった、話せなかったことを全部先生に打ち明けた。私はボロボロに泣いていた。何を言っているのかほぼわからない私の話を、先生は「そうか。そうか。」と真剣に聞いてくれた。一通り話したあと、先生は自分の弟の話をしてくれた。先生の弟も一時期うつにかかっていたことがあるらしい。自分から、病院に行くといって心療内科へ行き、薬を飲んだとたんにすっかりよくなったそうだ。
「お前もきっと今、うつなんやと思う。とりあえず、病院行こう。今日俺に話してくれたみたいに病院の先生にも全部話してみ。きっとすぐにらくになれる。それに・・・もう自分を傷つけちゃいかんぞ。身体が悲鳴をあげとるが。お前は独りじゃない。お前には俺がおるでないか。頼りないおっさんだけど、先生がついとる。苦しくなったら連絡してこい。」
先生は、自分の携帯電話の番号とメールアドレスを私にくれた。
翌日、私はすぐに心療内科へと行った。今までのこと、今のこと、ひとつ残らずゆっくり全部話した。
「うつ病ですね。しかも、結構きてます。正直、限界でしょう?あのね、完全に治るにはかなり時間がかかるよ。なぜかというと、あなたが幼い頃から溜め込んできたものが今になって爆発してしまってるから。1年やそんなもんじゃない。もっともっともっと時間をかけてゆっくり自分と向き合いながら、治していかんと治らんから。でも、絶対に良くなる。一緒に闘っていこう。」
そう言われて診察は終わり、お金を払って薬をもらって、家へ帰った。
私の苛立ちは限界に達していた。病院へ行くとらくになれるんじゃなかったのか?すぐにらくになれるんじゃなかったのか?1年以上かかるだと。ふざけるな。私は上半身はだかになり、カミソリを握っていた。そんなとき先生の顔が頭をよぎった。
「俺がついとるぞ・・。」
カミソリを捨て、先生に電話をかけた。病院でのことと、今の気持ちを全部話した。泣いた。泣いて泣いて泣いた。それでも先生はひたすら「そうか。」と話を聞いてくれた。私が言いたいことを全部言い終え、少しの沈黙のあとに先生が口を開いた。
「なぁ、人を本気で好きになったことはあるかい?愛されたいと心から願ったことはあるかい?人間はな、愛して愛されるために生きとるんや。生きることは闘いや。生きとったら辛いことも苦しいことも山ほどいっぱいあるよ。だけど、それを支えてくれるのは人間同士の愛なんや。人間ってさ、何千万年も前からいるんだぜ?だけど、俺らも人間。ずっと続いてるんだよ。いろんなことを経験して、愛し愛され子孫を残して死んでいく。それが生きるっていうこと。それが幸せっていうこと。自然な流れや。お前も人間ならその流れにのらなきゃ。絶対に良くなって幸せになるんや。まぁ、これは、俺の勝手な考えだけどね。大丈夫だよ。先生がついてる。言ったやろ?辛くなったらこうやってまた電話してこい。お前が少しでもらくになれるんなら、何時間でも話といてやる。俺は付き合うよ。何年かかろうと、何十年かかろうと、俺はお前を裏切らん。絶対にそばで一緒に闘ってやる。俺は嘘はつかんぞ。だから安心せえ。わかった?」
自分は泣きながら頷いた。18年間、人を信頼したことなんてなかったが、先生なら信用できるんじゃないかとふっと思った一日だった。
相変わらず苦しい日々か続いた。薬が効かない。悪化を感じる一方だった。
先生と連絡をとりながらも、結局は自傷に逃げていた。しかし、先生は「自分を傷つけるな。」なんて言わなくなった。
「傷つけることは良くなるスッテップや。自己嫌悪に陥るな。」
そう言っていつも私を慰めてくれた。
夏休みのある日、私は学校で宿題をしていた。
だれもいないひとりの教室。暑かったが好きだった。この頃、私は、苦しさから逃れられない辛さや情けなさ、また、家族間のいざこざで自暴自棄になっていた。自傷にしか価値を見出せず、本気で身体の隅から隅まで傷つけようと考えていた。腕、肩、胸、腹、どんどん増える傷。楽しくておもしろくて仕方がなかった。
たまたま、担任の先生が部屋に入ってきた。
「おぉ、がんばっとるの。」
そういいながら、私の机の前の椅子に腰掛けた。
「どうなん?最近。」
先生が心配そうに聞いてきた。
「余裕のよっちゃんやで。」
嘘をついた。
「そっか・・。」
先生はそう言うと、すかさず私の腕を掴み制服の袖を捲くり上げた。幾重にも重なった開きっぱなしの酷い傷。
「他には?」
「・・・。」
「正直に言え。」
「肩、お腹、胸、あと逆の手も。」
先生は言葉を失っていた。先生の目から溢れる涙。
「どうしてや。どうしてなんや?しっかりしろ!」
私は、ゆっくりと今の心のうちを先生に話した。私の本音。ボロボロになりたい。私の話が終わった後、先生が喋りだした。
「俺はな・・俺は、お前に傷つけてほしくないよ。本当に傷つけてほしくない。これは、ほんまは言うたらいかんのや。本にもインターネットにもそう書いてた。自傷を無理にやめさせることは逆効果らしい。だから、俺は『良くなるためや。』って自分に言い聞かせて、あえて注意はせんかった。だけど、だけど、お前が心の底からボロボロになりたいって思って、本気でよくない方向にむいとるなら、俺は言うぞ。何が何でも引っ張り戻す。切るな。切っちゃいかんよ。俺、女だったらお前の服全部脱がせて、傷見るよ。痛いけど、苦しいけど、お前のその苦しさを共有してやりたいんや。俺は本気や。本気でお前が心配で、本気でお前に良くなってもらいたくて、本気でお前に幸せに生きてほしいんや。だから切るな。俺のために切らんといてくれ。頼む。先生からのお願いや。」
私は思った。この人は、マジや、まれにしかおらんマジな人や、と。それと、同時にこの人についていこう、と。
「わかった。傷つけない約束はできない。だけど、最大限に努力はする。先生にいっぱい頼ってしまうかもしれん。だけど、頑張るから。本気で頑張るから。」
私が、そう言うと、先生は立ち上がりそっと肩を抱き寄せてくれた。
「すまん。本当は壊れるくらいに抱きしめてやりたい。だけど、抱きしめてはやれない。俺とお前は教師と生徒だから。だけど、心は本気や。一緒に頑張っていこう。」
本音と本音がぶつかった夏の暑い日。教室に射す西日は2人をゆっくりと照らしていた。
月日は流れ、2007年夏。
私は大学に入ってからうつが激しく悪化し、最悪の状態になっている。しかし、高校の担任の先生とは連絡をとりあい、相変わらず必死の毎日だ。
変化といえば、「絶対に自分を傷つけない。絶対に諦めない。」と先生と約束したことと、私が先生のことを好きになってしまったことくらいだろうか。
ある夜。
死にたい感情が気持ちをパンパンにし、本当にどうしようもなくなってわがままを言って先生に会いに来てもらった。待ち合わせ場所はうちの近所の神社。しばらくすると、先生がきてくれた。
「先生、わがままいってごめ・・」
私がそう言いかけたとたん、先生は何も言わず私を抱きしめた。強く、強く、強く、強く・・。壊れるくらいに抱きしめてくれた。
「車、行こうか。」
先生に誘導され、先生の車に乗った。運転席に先生。助手席に私。なぜかものすごく緊張していた。
「どうしたんや?」
私の緊張など一切関係ないかのように、先生はいつもどおり優しく話しかけてくれた。私の緊張もほぐれ、自分の苦しい胸のうちを先生に伝えた。
「そうか・・。おいで。」
先生はまた抱きしめてくれた。運転席と助手席という少し無理な体勢で抱き合ったまま、先生はゆっくりと話してくれた。
「苦しいよな。辛いよな。俺、わかってるよ。全部わかってる。だけど、すごくがんばっとるやん。約束ちゃんと守ってくれとるやん。そうだろ?俺は嬉しいよ。すごくすごく嬉しい。今、抱きしめあってる意味がわかるか?俺はお前のこと、ただの元担任、元生徒なんてゆるい考えで付き合ってないぞ。ひとりの人間としてお前に良くなってほしいと心から願ってる。人と人として真剣に闘っていく覚悟や。」
そういって、先生はゆっくりと身体を離した。そして、なにも言えず固まっていた私にそっとキスをした。
「初めて?」
頷く私。
「軽蔑する?」
首を振る私。
「初めてが俺でいい?」
ゆっくり頷く私。
先生は、もう一度キスをして言った。
「舌、出せ・・・もっと。」
先生はおもいきり私の舌を吸った。いやらしい音が車内に響く。
「俺は・・俺は、教え子に・・教え子に・・こんなことするんははじめてや。苦しくても・・辛くても必死に頑張ってるお前が・・かわいくて・・愛おしくて・・。お前は・・お前だけは特別や。正しいことかはわからん・・。だけど、お前に・・愛されるということの素晴らしさを・・生きるということの素晴らしさを・・知ってもらいたくて・・。」
ディープキスをしながら、必死に喋る先生の頬には涙が流れていた。
「・・・愛していいかい?」
先生にそう聞かれ、私は先生に先生のことが好きだという気持ちを伝えた。
「…ホテル…行く?」
正直、焦った。
「先生は?先生はかまんの?」
「わからん…。」
「こんなことして、先生が傷ついたり、苦しい気持ちになるんやったら、自分は嫌だ。」
「俺がどうこうよりも、俺はお前が傷つくんじゃないかと思って。どうや?」
「自分は…大丈夫。」
「俺なんかでいいの?」
「・・先生が・・いい。」
「わかった。シートベルトしめろ。」
先生は車を走らせた。車内では終始無言だったが、先生はずっと手をつないでいてくれた。
ホテルにつく。あたりまえだけど初めてのラブホ。かなり緊張した。
車を止めて階段を上る。室内にはスロットやらなんやらとわけのわからないものもあり、少しとまどった。
「びっくり?」
先生に聞かれたが緊張のあまり返事ができなかった。
先生はためらうことなくサンダルを脱ぎ、こっちに向かって手を広げた。
「おいで。」
私の中でなにかが開放的になりおもいっきり先生に抱き付いた。二人はベッドに倒れ込み、深いキスを交わした。ゆっくりとブラジャーのホックを外してくれた後、丁寧に服を脱がしてくれた。先生は自分でズボンを脱いでいた。手際よくお風呂場へ行き、浴槽にお湯を溜めてもいた。裸の自分とTシャツにトランクスの先生。電気を消して再び抱き合って愛しあった。
「本当に俺なんかでいいのか?」
「うん。」
「俺、もう入れたいんだけど…。」
「いいよ。」
先生はコンドームをとりベッドの片隅でこっそりとつけていた。
「おいで。」
先生に抱き付くと、先生は私を横に寝かせ、自分の服を脱ぎ捨てた。本当に俺なんかでいいのか?と再び確認したあと、おもいっきり足を広げられた。
「最初は痛いかも…。入れるよ。」
「…うん。」
なかなか場所がわからず、先生はとまどっていたが場所を確認して、おっきくなった先生のものをおもいきり自分のなかにつっこんだ。
「…入ってる。もうちょっとで入るよ。痛いかい?」
「痛くない。」
「怖いかい?」
「怖くない。」
嘘をついた。正直、かなり痛かった。だけど、それよりも幸せのほうが大きかった。
キスをしながら先生は必死で自分のものをつっこんだ。
「入った。…ひとつになったよ。俺とひとつになったんだよ。」
先生は息を荒げてキスをしながらそう言った。私は痛くてそれどころじゃなかった。
「…ごめん。もっとこうしていたいけど、俺、我慢できないよ。俺、イクよ。イッてもいい?あぁ、イク…イクぅ~。」
先生は外に出して抱き付いてきた。おなかの辺りで先生のちんちんがドクドクなっているのがわかった。
「いっぱい出ちゃった…。」
先生はコンドームの処理をして、私のあそこをティッシュで拭いてくれた。
「血が出てる…。痛かったろ?」
「大丈夫。」
「お風呂行こ。あ、もうちょっとじっとしてたほうがいい?」
「ううん。」
手をつないで二人でお風呂場へ行った。裸の先生と自分。なんかすごくすごく恥ずかしかった。
「あっちぃ~。」
先生のミスでお湯がかなり熱かったらしい。
「これじゃはいれないね。」
先生はお湯と水を混ぜてからだにかけてくれた。
先生がバスタオルを持ってきてくれた。
「まだ入れないからベッド行こう。」
手をつないでベッドに戻った。ベッドにはたくさん血がついていた。これは痛いはずだ、と思った。
血の付いたところにタオルを敷き、ふたりで横になった。先生は手をつないでくれた。
「正直、痛かったでしょ?」
「…うん。」
「ふふふ。でも、何度かしてると本当に気持ち良くなるらしいよ。」
「…うん。」
それからの会話はよく覚えていない。たぶんどうでもいい話をしてた。気がつくと先生寝てた。キスしたかったけど、やめた。自分は天井見ながらぼーっとしてた。この時間、ずっとずーっと続けって心の底から願った。
先生がむくっと起き上がり、お風呂見て来るねって笑顔で言った。たぶんぬるいだろうなと思った。先生は戻ってきて言った。
「冷たいぃ~。」
やっぱり。でも、先生のそういうところが好き。
キスをしてくれた。舌をちょんちょんし合ったり、おもいきり吸い合ったり、唇はむはむし合ったり…。おっぱい吸われて、もう一回キスしたあと「お風呂見て来る。」ってちょっと慌てて先生はお風呂を見に行った。
「ちょうどいいよ。行こ。」
手をつないでお風呂場へ向かった。
一緒にお風呂に入った。おもいっきりお湯があふれた。先生と向き合ってお風呂に入っていることがすごくすごく照れくさくて、お湯に顔突っ込んでぶくぶくしてごまかした。
「おいで。」
先生が手を広げた。狭い浴槽で先生の胸に飛び込んだ。
「落ち着く?」
「うん。」
「ずっとこうしてたいな。」
「うん。」
キスをした。いっぱいキスをした。ゆっくり体を離したあと先生が言った。
「出よっか。」
とても寂しかった。
バスタオルでからだを拭いて、ベッドに座った。先生は傷痕だらけの身体を見ながら言った。
「もう、だめだよ。」
「うん。」
「肩とかそうとう深くやったんじゃないの?血もたくさん出たでしょ。」
「うん。」
「すっきりするの?」
「らくになれた。」
「今日もたくさん血が出たけど…?」
「これは違う。」
オヤジギャクをさらっとかわした。
先生がブラジャー取ってくれた。上着も裏返してくれた。もう帰らないかんのやって実感した。辛かった。
服を着終わったあと先生は手際良くそのへんの整理をして忘れもんないか確認してた。
自分がぼーっとしてると、大きく両手を広げてくれた。しっかりと、今日のこと忘れないように、お互いにおもいきり強く強く抱きしめ合った。
「お金払ってくるからちょっと待ってて。」
先生は外に出ていった。コンドームが余っていたので記念に持って帰ろうか迷ったけどやめた。今になってすごく後悔している。
帰りの車の中。やっぱり無言。でも、しっかり手はつないでた。
「着いたよ。」
すぐに家のそばについた。
幸せな時間は過ぎるのが一瞬だ。すごく寂しかった。
「ありがと。」
お礼を言って、先生の方を見ると、先生がにかっと笑った。
「おう。がんばろな。」
自然と私も笑顔になった。
うつの苦しさは今も相変わらず続いている。
だけど、何があっても私は決して負けない。
私には愛する大切な人がいるから。
生きてる意味があるから。
だれにも言えない初体験だった。だけど、だれよりも幸せな初体験だった。
2007年、暑い暑い夏。
本当にあった、あついあつい出来事。
-END-
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