たましいによろしく
「大谷に渡すともっと早い曲やれって言われそうだからなぁ・・・」
グレート前川氏は電話口の向こうポツリと呟いた。俺は苦笑いをした。
フラカンがメジャーに復帰する。
結成から19年6ヶ月、メジャーデビューから13年6ヶ月、
メジャー離脱から7年8ヶ月、フラワーカンパニーズがメジャーに復活するのだ。
11月26日「たましいによろしく」発売。
フラカンがメジャーデビューした1995年、その一年前に俺らは吉本興業のドアを叩いて芸人の道を選んだ。
いろんなことがあった。
いろんな場面があった。長くなるから書かないけど。
デビューして順調に売れていったフラカン。
その絶頂期、俺は当時数少ないファンの方からいただいた日比谷野音公演のチケットをいただいてライブを観にいった。
まぁまぁだなぁって思った。
いや本当にそう思った。
俺はエレファントカシマシが好きだったから、フラカンはまぁまぁだったんだ。
俺にはやりたいコントがあった。テレビでお笑いやってる人より自分らが偉いと思っていた。
自分の作ったコントは作品だと思っていた。
俺はコントで世界が変わると思ってた。
面白い単独ライブでみんなから尊敬されるもんだと思っていた。
俺はあっさり挫折した。
あっさりだよ。
才能。
それがないなぁって思った。
人を笑わせることの難しさ。大人に好かれる処世術、本物が観て分かる質感、芸、それがない。
それがどんなに努力しても手に入らない。
ただただ無駄にだらだらと汗をかいては、また逃げて、気づかないフリをして辞め時を失った。
俺は全国ツアーをやってみた。憧れの千原兄弟さんに真似て、俺らもオンボロのバンに乗って夏単独ライブをやった。深夜番組出て、M-1出て、干されて、まぁいろいろやってみて、いろんなもん味わった。
2002年全国ツアー「楽勝」の大分公演。
同級生のハードコアバンドやっている友達に最近のオススメを聞いてみた。
“フラワーカンパニーズがいいんだよ”
歯の欠けた口を大きく広げてそいつは笑った。
フラワーカンパニーズ。あぁ、あのまぁまぁのバンドだ。
半信半疑、俺は大分のCDショップを駆け巡ってやっと「吐きたくなるほど愛されたい」を手に入れた。
CDはメジャーからじゃなく、インディーズから発売されていた。フラワーカンパニーズは気づいたらインディーズバンドになっていた。
次の公演先まで爆音でかけた。
俺と大地は吼えた。
“かっちょいぃぃぃぃい!!!!!!”
俺らの初めてのDVD「俺道」の主題歌はフラカンの「馬鹿の最高」にした。
これ俺らの歌だと思ったから。
フラワーカンパニーズのリーダーであるグレート前川は今回のメジャー再復帰に際しこう言う
「長いよねぇ・・・ようやっとるよね、成功せんまま19年も(笑)」
ボーカルの鈴木圭介が続ける
「1曲も当たってねぇもん、一発屋でもないんだよ?よく続いてるよね」
よしもとファンダンゴテレビの企画・主催で開催することになった「ダイノジロックフェス」。
今では自分らとチッタワークスさんで自主的に続けてるライブイベント。
自分らが流行り廃りに関係なくグッときたバンドだけを呼んでやる非常にわがままなイベント。
2004年7月初めて開催した。
その記念すべき一回目のトリをかざったのがフラワーカンパニーズだった。
番組で競演して以来、いや正確にはあの日CDを車の中で聴いたときi以来、俺と大地は足繁くフラカンのライブに通っていた。
俺らにとってフラカンはもうまぁまぁのバンドじゃなくなっていた。
人生のバックでずっと流れるBGMを奏でる大切な大切な尊敬できるバンドマンたちだ。
沁みた。とにかく沁みた。いろんな映像が、いろんな経験が、ライブを観ている間、ずっと頭の中で流れている。
その日、演奏された楽曲「深夜高速」。
“生きててよかった 生きててよかった 生きててよかった そんな夜を探している”
「深夜高速」フラワーカンパニーズ
中島らもの「僕に踏まれた町と僕が踏まれた町」にらもさんの同級生が自殺する下りがある。
その同級生にらもさんはこんな感じのことを言う。
「あいつは馬鹿だ。どんなクズにも必ず生きててよかったと思える夜が一日はくるのに。俺たちはその一日のためにずっと生きていかなきゃいけないのに」
俺はフラカンを招き入れる前に、そんなことを言った。
多くの芸人が、お客さんが自主制作の「深夜高速」を買って帰った。
ダイノジロックフェス一回目は大成功に終わった。
そのダイノジロックフェスの2ヶ月前、中島らもさんは帰らぬ人となった。
今も吉本には年間凄い数の芸人志望の子が入ってくる。
もちろんみんながメシを食えるわけじゃない。
挫折を感じて就職したりすればいいけど、諦めきれぬために僅かな希望にかける。
眠い目こすりながらアルバイトしながらも芸人にしがみつく。
「成功の秘訣は続けることだ」と誰かが言う。
続けても続けても成功しない奴もいるだろうに。
そう言うしかない、そう言うことでしか自分の青春をかけたロマンの置き所が
ないのだ。
名の知れぬ芸人は君にとっては無益な愚か者なのか?
一回目のダイノジロックフェス終わり、俺らは仕事を失った。
月に数回懇意にしてる社員さんが回してくれる営業が食い扶持だ。
当時人気のあった三瓶とセットで日本中を周った。
俺たちのネタはよくうけた。
でも俺たちがテレビに出ることはなかった。
俺たちを救ったのはそんな営業の数々と劇場での出番、
それとプロモーションビデオに出演させてくれたケツメイシ、
勇気をもらえたバンドマンたちのライブだった。
大丈夫だった。
卑屈にはなるけど、相変わらず音楽や映画や本、そして何よりも
愚直なお笑いへの思いだけが自分を鼓舞してくれた。
それこそ“お笑いやっててよかったと思えるその日のため”
だけに芸人人生を更新しつづけた。
行き先の分からぬ芸人漂流者でありながら、俺はやめなかった。
子どもが産まれたこともあったのかもしれない。家族ができるということもあったのかもしれない。
いろんなことを発見し、気づかせてくれた、生きていたからこそだ。
もう一度書こう。
フラワーカンパニーズがメジャーに復帰する。40歳手前、とんでもないことだ。
タイトルを「たましいによろしく」という。
結論から言いましょう(矢沢永吉風)
こんな大事なときにこんな大傑作つくりやがって感じの傑作です。
この作品は今、そうこの時代に、この国に、君たちに、
聴き手を選ばず、しっかり叙情的に届くはずだ。
だってメロディいいもん。アレンジもいいもん。
早い曲はないよ。やっぱりないよ。
予想通り。
音圧のある流行の4ッ打ちやディスコもない。キラキラしたガーリーポップスじゃない。
ライブハウスで暴れたい人にはイマイチかもしれない。
でもここには誰もが、この閉塞した時代の中で感じる圧迫感を解き放つ、警戒でシンプルでフォーキーな歌があるから。
うん、すごくいいよ、アコギの音か相当いい。
何よりこの作品には数限りないライブで得たグルーヴがある。
4人でやる続けたバンドマンだけが得ることができるバンドのマジックがある。
シンプルだが非常に強いサウンドプロダクトだ。
また「たましいによろしく」にはユーモアがある。
どんなにシリアスでもユーモアを忘れるなよと君らにささやく。
すえた人生に、しょっぱい哀しみに、少しの笑いをまぶしながら街へ飛び出すんだって言ってくれる。
青春ごっこをし続ける大人たち、いや青春ごっこをすることで、生きててよかったと思える夜を過ごす、真剣な、切実な、張り裂けそうな気持ち抱えて探し続ける駄目な大人たちへの応援歌だ。
負け犬だ?馬鹿やろう!ほっとけよ。金を稼ぐことだけが目的で、金を稼いだら女の気持ちも買えると嘯くやつ!お前の言うことはもっともだろうよ(ズルッ)
でもな、俺は認めねぇぞ、認めたくねぇぞ。あがくぞ、もめるぞ、うんって言わねぇぞ。
立ち上がったぜ、この4人が。
いや本当はそんなかっこいいもんじゃないかもしれない。
宣伝写真の4人。老けたなぁって思うもん。
あれあの爆発的なライブやってるフラカンってこの4人だっけって思ってしまうもん。
敗者復活戦だってさ。
まったくどこにそんな体力があるんだよ。
売れる?売れない?
大事大事。
それはすごく大事なこと、あなたの言うとおり。
でも無責任なこと言うなよ。
そんなことに振り回されて、迷って、行く道フラフラするやつもいるんだ。
かたくなになって耳をふさいでしまう奴もいるんだよ。
分からなくなって、苦しくなって、休みたくなってしまう奴もいるんだ。
でもね・・・、休んだなら・・・そろそろ立ち上がろう。
行こうよ、とあのときの自分が言う。思いだすんだ、胸の中、魂の中にいる今までの自分のこと。今まで自分が出会った人、傷つけた人、傷つけられてしまった人。
みんな元気かな?。
フラワーカンパニーズの「たましいによろしく」
今度のアルバムは売れるかな?いろんな人に届くといいな。
でもさ、本当はもっともっと大事なことあるんだぜ。
きれいごとって笑われてもいい。本当なんだよ。
どのみちどうせやるんでしょ?
どうせやり続けるんでしょ?
売れなくてもまたやるんでしょ?
やりつづけるんでしょ?
そしてやがて死んでいくんだ。
ただそれだけなんだ。
それがどれだけの人の背中を押し続けているのか、どれだけの人の魂に火をつけるのか。
熱い珈琲を飲もう。
何杯飲んだっけ?
そろそれ寝なきゃ。
明日も頑張るために。
頑張るだって、俺がか?
あんな諦めていた俺がか?
そんな言葉だけで、そんな決意だけで、少しだけやれる気持ちのある人間だっているのだ。
このアルバムはそんなギリギリの毎日を生きるあなたのためのサウンドトラックだ。
“チャランポランに生きてたって 年だけはちゃんととっていく
しわくちゃの顔で笑ったよ 白髪まじりで笑ったよ
このままいくしかないんだな このままやるしかないんだな
自分にやれる事だけを ひとつぐらいは残っているだろう
HEY たましいよ まだまだいこう まだまだやろうぜ
HEY たましいよ ぶっとばしていこう ぶっ壊していこうぜ
もう少しつきあえよ
もう少しつきあえよ“
「たましいによろしく」フラワーカンパニーズ



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