バッドボーイズ
僕は日本中に人々が滅入ってしまう梅雨時この世に生をうけた。職人共は雨の日は働き口もなく、ただ憂鬱に空を眺める日々、そんな風景を思い出す初夏の日、俺は生まれた。俺はこの季節がイヤだった。うちは貧しく誕生日パーティーなんて夢の夢。家で内職をしていた母によく愚痴っていた。皮肉か?俺はこのお笑い芸人という仕事について、この6月に忙しく何かに集中していたという記憶があまりにない。ブルーマンデー、労働者にとって憂鬱な月曜日、俺はそんな気持ちをなぞりながら仕事にもありつけず明日に不安な日々を過ごしていたものだ。今年もそんな日々がやってくるかと思っていたある日、俺に吉報が舞い降りた。4月にうけたオーディションによる映画主演のお仕事だ。映画?主演?俺はこの大抜擢に心胸躍った!絶望の谷底に照らされた一筋の光。最初の役者の顔見せ、そして渡される台本。ドキドキしながらページをめくる、そこには一番最初に名前が書いてあるは・・・あれっ?俺じゃない?一番最初は俺じゃないぞ!そこに書いてあったのが、俺と二人主役を務めたバッドボーイズ佐田くんだ。 佐田には不思議な魅力がある。なんというか男の色気というのか。決して正統派な男前ではないが、優しき古き男の色気。それもそのはず、こいつ地元博多ではかなり有名なワルで、一番でかい暴走族の総長を務め、鑑別所にも入っていたような奴だ。だがビートたけしさん曰くの"振り子理論"(中途半端なワルは中途半端な優しさしかない、徹底してた奴は全て徹底する、だからやさしさも徹底的に優しい)のとおり、実にこいつ優しく温かい、俺の大好きな男、いや"漢"なのだ。たとえば実家から送ってもらった明太子をスタッフ全員に配るときも、どんなに目立たないスタッフへの気配りを平等にと忘れない。簡単なようでこれは難しい、周りを省みるということを映画主演というプレッシャーの中実行するのは。それに撮影終了で一番涙を流していたのもこいつだし、なにより不良の大人がみんな彼を可愛がるのはその尋常じゃない礼儀正しさの所以だろう。そんな男としては申し分ない佐田君、一度だけ不徳を犯した奴のふとももをナイフで刺したことがあるんだとか。その理由はと聞くと「そこにナイフがあったから」という。俺は爆笑した!登山家かよと。そしてこいつは俺と一緒で家庭環境が複雑な典型的母子家庭だ、俺が可愛がらないはずがない。お互いいい親孝行できたなぁっと笑った。こんな刺激的な奴と過ごした32回目の6月の雨の中で作られた作品が12月に劇場公開される。その公開日は奇しくも僕をこの世に産んだ母の53回目の誕生日である。



